できごと

「The Blend Inn」という大阪にあるホステルにまつわる話

2018/12/16

先日の大阪出張の際に印象的だった「The Blend Inn」というホステル(での出来事)について書いてみようと思う。
ウェブサイトにはこんな説明がある。
「ゲストハウスのクオリティは保ちつつ、ファミリーや少し歳を重ねたゲストハウス好きの方、ホテルより刺激的な宿も泊まってみたい方にも利用してもらえるような「その次のゲストハウス」をイメージしたのがThe Blend Innの成り立ちです」
「The Blend Inn」は2017年にオープンし、梅田にも難波にもおよそ4㎞(チャリで15分)という利便性の高い場所に位置しながら、下町の雑多さを残し、いい意味で多様な庶民が行き交う雰囲気のなかにはある。

ぼくは宿に辿り着き、スタッフさんに館内説明をしてもらいながら部屋に通されると、荷物だけ置いてあらためて階下のフロントで近隣にあるおいしいごはん屋さんを訊ねてみた。
何を食べたいかを問われたが(特にないので)個人的なおすすめをと聞くと「くにちゃん」というお好み焼屋さんをすすめられたので素直にそこに行くことにした。
普段その場所がなければ足を向けないような地域にあるゲストハウスは、その町の案内人(コンシェルジュという呼び名はしっくりこないが)でもあるという意識のせいか、すべからく独自のマップを用意し、飲食店やスーパー、銭湯などの生活に必要な情報を編集し提案している。
もちろん「くにちゃん」もそこに載ってはいた。

「くにちゃん」では大阪風と広島風両方のお好み焼を提供していたが、大阪に来たのだし本場大阪風と思いながらも店員さんに「広島風のお好み焼もけっこうみなさん食べられるのですか?」(そんなのどうでもいいではないか?と思うものの)と聞くと、「けっこう食べはります」とのことだったので、ぼくは広島風のミックスそば入りともやし炒めと生ビール(中)を注文した。
結局大阪に来て広島風お好み焼(のみ)を食べてお店をあとにするわけにはいかない(罪悪感にも似た)気持ちが湧き上がり、デザートにシンプルな大阪風お好み焼き豚玉を2杯目の生ビールで流し込み、お店をあとにした。

ぼくはそのまま千鳥橋筋商店街をふらふらと歩きながら、マップに記載されていた少し離れた場所にある「千鳥温泉」という名の銭湯の暖簾をくぐる。
入場料440円と貸しタオル20円を払うと広々とした脱衣場と清潔感のあるお風呂が見えた。
やや熱めの風呂に入ると「タオルを湯船のなかに入れないでください」という看板が目に入った。
その脇で全身に入れ墨のあるお兄さんが体を洗っていた。
日帰り温泉ですべからく目にすることになる「入れ墨の方入館禁止」という貼り紙はどこにも見当たらなかった。
お兄さんはかわいいボーダーTシャツを着て、受付のおばさんに「おおきにいつもありがとう〜」と言われながら颯爽と出て行かれた。
連綿とつづく地域性、土着性が、一周回ってグローバルな価値観に接続しているようだった。

宿に戻り、1階フロアで売られているビールを買おうと、行き来している男性に声をかけた。
お金の受け渡しをしながら、まぁ座ってくださいよ!などと言いながら彼は「なぜThe Blend Innに来ようと思ったんですか?」と聞いてきたので、エルマガの編集者さんにおすすめの大阪の(ミナミを中心とした)宿を聞いたら「The Blend Inn」と「HOSTEL 64 Osaka」を勧めてくれたからだと伝えると、とても喜んでくれた。
ぼくらは名乗ることしないままにあれこれ話しているうちにわかったこととして、彼は「The Blend Inn」の立ち上げから関わっている詩人であり、写真家でもある辺口芳典さんという人だった。

彼と話すことでうっすらと見えてきたすこしだけ俯瞰的な話をしてみたい。
インバウンドという追い風もあって、都市部を中心にゲストハウスが急激に増えているが、その多くは低価格で泊まれるというシステムを可能にするために、あるいはずっとその町にあった建築物(を含めた文脈)を活かすという口実によって中古物件をリノベーションしたものがほとんどである。
そういう状況を見たり、これからゲストハウスをつくるときに新築なんてありえない、という言葉を聞けば聞くほど、「新築でつくりたい」と思ったのだと辺口さんは言う。
みんなが新築無理だって言うから新築でやりたいってどうなんだろう(笑)と思いつつも、人が行かない場所(やり方)に行くべきだ、という直観のようなものがあったのだろう。
ただぼくが「The Blend Inn」という建築に入り、1階共用部(リビングダイニング)の上部の吹き抜けや全体的にゆとりを感じる間取りを見るに、これが新築(という投資までしても)として成立するのか?という疑問がまず浮かんでしまう。

共用部の書架に置いてある「The Blend Inn」の掲載誌を見るに、土地を購入し新築するとなると資金計画が難しく、暗礁に乗りあげかけたが、一緒に土地を探してくれていた街の不動産会社さんが、自社所有の土地に建築を新築し、それをホテルが借り上げる形で運営してはどうかと提案があった、という。アメリカなどでは(行政ではなく)不動産屋さんが主導して街の魅力を高め、それによって(周辺の付加価値を高めることで)収益を高めていくような、きわめて健全に思える流れがあるが、大阪の此花区でもそれが志向されていたということにまず驚いた。

板目のついたコンクリートの構造体をベースにして、工場現場用のクリップライトのパーツをハンドソープを吊すために使っていたり、ジャッキアップ用の金物でベンチがつくられていたり、有孔ボードに麻布を貼りそこに漆を塗った天板をつかった長いテーブルが置かれていたり、街にあふれるどこにでもありそうなものをブリコラージュ的に使うことで、ラグジュアリーモダンからほどよい距離を取った、趣味の良いドレスダウンがなされている。

それは、ぼくが2016年に三条スパイス研究所のプラン出しの段階で思考していた、違法増築したり、プランター(という名の拡張した庭)が家の領域を越えて道路に侵食したりする、法律なんて知ったことか!ボケ!!というかのような(いい意味で)無秩序な、であるがゆえに生物的な動きが建築全体に感じられる雰囲気としてそこにはあった。

さて、ぼくは辺口さんのように詩人・写真家という肩書きも能力もなくわけだけれど、(物理的な/オフラインの)場というものは詩や写真ほどぼくらに「わかる」ことを強要しないし、深く思索した表現の意味を押しつけることもない。
奥行きを持つことに挑む人は、どう間口を設計するかに苦心する。
その解答のひとつとして、カフェやゲストハウスは「開く」という意味において有意義であるように思う。
つまりぼくらは生きていく(人の役に立つ)ために仮説的に奥行き×(かける)間口の(面)積を必要としている、ということだけは確かだ。
そして奥行きにばかり興味を持ってしまう(ぼくみたいな)人は、カフェや宿というとっつきやすい間口をつくりながら、その価値を反転(倒錯)させるような地域の文脈を探索しつつ設計することで、思考(志向)したい奥行きに妥協することなく、あるいはそれを活かしながら生きていくことができる。
だから辺口さんの試行錯誤をぼくは自分ごとのように(勝手に)聞いた。

ぼくはとてもとてもひさしぶりに「ここ、すごいなー」と素直に思えたのだ。
こんなにもディティールが積み重ねられた、微細な(感覚の束のような)雨を気持ちよく浴びることができる場所はそうそうない。
だから「The Blend Inn」がどうやって生まれたのか?をもっと知りたい気がした。
(無理だと思うけど、辺口さんを含めて関係者を新潟に招いて)

遠くないうちに再訪することを誓いつつ。(家族がUSJに行きたいらしいので)

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